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東金簡易裁判所 昭和32年(ろ)55号 判決

被告人 三瓶清一 外二名

主文

被告人三瓶清一を罰金弐万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金弐百円を壱日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人鈴木勲、同中嶋昭一はいずれも無罪。

理由

(被告人三瓶清一の犯罪事実)

被告人三瓶清一は、肩書住居で肩書の職業に従事し、三平食品株式会社の代表取締役でもあるところ、法定の除外事由がないのに、昭和三十二年六月八日千葉県山武郡山武町埴谷二千四百七十四番地農業沢田定夫方から同町埴谷宿歌川木材工場に至るまで、右会社の雇人である相被告人鈴木勲、同中嶋昭一に命じ同人等を自己の手足として自動三輪車に積載して水粳玄米四斗入南京袋四袋を運搬輸送したものである。

(証拠)(略)

(弁護人の主張について)(略)

(適条)(略)

(被告人鈴木勲、同中嶋昭一に対する無罪)

被告人鈴木勲、同中嶋昭一に対する本件公訴事実の要旨は、同被告人等は被告人三瓶清一と共謀の上判示日時に判示場所を判示水粳玄米を輸送したものであるというに在るが、前示各証拠によれば

被告人鈴木は、昭和三十一年三月から、被告人三瓶が代表者をしている前記会社に通勤の自動車運転手として雇われ、日給三百円(月収手取り約八千円)の収入で生活し、家族は妻と長女(四才)二女(二才)のほか父母、妹二人であり父や家族は水田約五反歩を耕作し、父名義の茅葺平家建住家一棟物置二棟あるほか被告人鈴木名義のものは存在しないこと。

同被告人の経歴として、高等小学校高等科一年修了後農業をしていたが昭和二十九年四月自動三輪車の運転免許を受け臨時に農業協同組合や附近の澱粉工場に自動車運転手として雇われた後前記会社に雇われ現在に至つていること。

被告人中嶋は、昭和三十年十二月から前記会社に通勤の店員として雇われ主として落花生の殻剥きなどの仕事をして日給三百十円(月収手取り約八千円)の収入で生活していること家族は妻と長男(七才)母の三人であり、財産として杉皮葺の平家建住家一棟あるも他にはないこと。

同被告人の経歴として東京都荒川区三河島の小学校六年卒業後昭和二十年八月まで組立工をしていたが住居地に疎開して製材工をした後前記会社に雇われ現在に至つていること。

被告人中嶋は、沢田方で自動三輪車に積載するときはじめて手触りで米であることを知つたものであり、被告人鈴木は被告人三瓶より詳しい事情は聞かなかつたが米を運搬することを命ぜられたもので、いずれも本件玄米を現実に運搬する当時には少くとも米であることの情を知つていたが、雇主である被告人三瓶の命令であるのでこれを拒絶することができず、その命のまゝ運搬行為をなしたものであることが認められる。

以上認められる諸事実を綜合して考えると、被告人鈴木、同中嶋はその職を失うことを覚悟してまで右の命令を拒絶することを期待することは不可能であつたものと認められ被告人鈴木、同中嶋については期待可能性がないから故意の責任を阻却するものというべく、結局罪とならないから刑事訴訟法第三百三十六条前段に従い、同被告人等に対しては無罪の言渡をする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 丸山武夫)

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